はじめに|不登校児の親御さん
お子さんが学校に行けなくなったことで、親御さんはどれほど不安な日々を過ごされていることでしょうか。時には「自分の育て方が悪かったのではないか」と、ご自身を責めてしまうこともあるかもしれません。
しかし、まず知っていただきたいのは、不登校は「問題」ではなく、「子どもが出しているSOS」だということです。お子さんは決して怠けているわけでも、甘えているわけでもありません。
心や体が限界を迎えて、「今は休ませてほしい」と懸命にサインを出している状態なのです。
この記事では、不登校を理解するための「7つのタイプ(原因)」と「7つの段階(回復の流れ)」を、親御さんが日々の生活で活用できるように、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。
不登校の7つのタイプ
不登校になる理由は、お子さん一人ひとり異なります。しかし、その背景には共通したパターンがあり、大きく7つのタイプに分類できます。
最も大切なのは、「どのタイプも、行けないのは子どもが悪いわけではない」ということです。
母子分離不安型
小学校低学年に多く、親御さんと離れることに強い不安を感じるタイプです。親がそばにいるときは笑顔で過ごせるのに、学校の門の前で泣き出したり、朝になるとお腹が痛いと訴えたりします。
「甘やかしすぎ」と思われがちですが、実は「安心感が足りていない」状態です。無理に離そうとせず、「ママはここにいるよ、大丈夫だよ」と安心感を取り戻すことが先決です。
情緒混乱型
真面目で努力家、完璧主義の傾向がある子に多いタイプです。頑張りすぎて心のエネルギーが尽き、頭痛や腹痛などの身体症状が出ます。「学校に行きたい」という気持ちはあるのに体が動かず、学校に行けない自分を責めて罪悪感に苦しみます。
このタイプには「がんばって」という励ましは逆効果です。「今までよく頑張ってきたね」「もう無理しなくていいよ」という承認と安心が必要です。
混合型
不安や落ち込みがある一方で、楽しいことには反応できるタイプです。原因がはっきりせず、生活リズムが乱れやすいのが特徴です。焦らず、「朝起きられた」「ご飯を食べられた」といった小さなことでも認めて、達成感を感じられる環境をつくりましょう。
無理な目標は避けて、できることから少しずつ進めていくことが大切です。
無気力型
学校への義務感が薄く、「なぜ行かないのか」と聞いても明確な答えがないタイプです。「別に」「分からない」という返事が多く、家ではゲームや趣味に熱中しています。
無理に行動を促すのではなく、「自分ができること」「自分がやりたいこと」を見つけるサポートが鍵です。否定せず、本人のペースを尊重しましょう。
人間関係型
いじめ、クラスの人間関係、教師との摩擦など、学校生活でのトラブルが原因となっているタイプです。学校へ行く意思はあっても、環境が怖くて戻れない状態にあります。
家庭だけで解決しようとせず、学校や専門機関と協力して「安全な居場所」を整えることが最優先です。子どもの安全を第一に考えましょう。
ストレスによる神経症型
強いこだわりや不安があり、ストレスによって心身に症状が出るタイプです。手を何度も洗う、確認行為が止まらないなどの強迫行為や、食事が極端に減るなどの症状が見られます。
このタイプは医療的支援が必要なケースもあります。「気持ちの問題」と片付けず、早めに心療内科や児童精神科など専門機関に相談しましょう。
発達障害・学習障害型
ASD、ADHD、LDなど、発達特性が背景にあるタイプです。集団生活でのストレスが強く、「できない」経験が積み重なって自己肯定感が下がっています。周囲の理解と環境調整があれば、多くの子どもは学ぶ意欲を取り戻せます。
支援級や通級指導など、子どもに合った学び方を探しましょう。発達特性は「治す」ものではなく、「理解して工夫する」ものです。
回復の7つの段階
不登校は、ある日突然始まるわけではありません。心と体のエネルギーが少しずつ減り、次第に学校に行けなくなっていくプロセスがあります。
そして、回復にも段階があります。
今お子さんがどの段階にいるのかを知ることで、「今、何をすべきか」「何をしてはいけないか」が見えてきます。
予兆期
学校に行けなくなる前の、サインが出始める時期です。まだ登校はできていますが、朝起きるのがつらそうになったり、夜更かしが増えたり、体調不良を訴えることが増えます。
この時期は「見守り」が大切です。「最近疲れてるね」「何か心配なことある?」と優しく声をかけることで、深刻化を防げることもあります。
不登校開始期
登校への抵抗が強くなり、「学校に行きたくない」という言葉が出てくる時期です。この時期は「学校に行かせること」よりも「安心を取り戻すこと」を優先します。
「みんな行ってるのに」といった言葉は、子どもをさらに追い詰めます。「休んでいいよ」「ゆっくりしようね」と伝え、家を安全な場所にしましょう。
完全不登校期
学校にまったく行けない状態が続く時期です。昼夜逆転が起き、部屋に引きこもることもあります。子どもは罪悪感と無力感に苦しんでいます。
親の焦りや説得は、さらに心を閉ざす原因になります。「家にいてもいい」「今は休む時期なんだ」と伝え、「生きているだけで十分」というメッセージを伝え続けることが、回復への第一歩となります。
定着期
不登校の状態が落ち着き、少しずつ心の整理が始まる時期です。家では落ち着いて過ごせるようになり、ゲームや趣味に没頭する姿が見られます。それは心を守るための行動でもあるのです。
ゲームやネットを否定せず、「楽しそうだね」と受け入れましょう。家族で外出する、一緒に料理をするなど、日常の小さな活動を通じて、少しずつ生活リズムを整えていきます。
活動の再発期
外出や交流が少しずつ増えていく時期です。新しい環境に挑戦しようとする気持ちが芽生えますが、同時に失敗への恐れもあります。「急がなくていいよ」「失敗しても大丈夫だよ」という言葉が子どもの支えになります。
無理に背中を押すのではなく、子どもが自分のペースで一歩を踏み出せるように、そっと見守りましょう。
リハビリ期
学校への部分的な復帰や保健室登校が始まる時期です。週に数回、学校に行けるようになったり、保健室や相談室で過ごしたりします。
親の過剰な励ましより、「見守る姿勢」が力になります。「毎日行かなくてもいい」「行けた日があるだけで素晴らしい」というスタンスで接しましょう。
完全登校・社会復帰期
学校や社会に戻り、新しい日常を歩み始める時期です。友達との関係が安定し、自分のペースを大切にしながら前に進めるようになります。「よくここまで来たね」という承認の言葉が、何よりのエネルギーになります。
ただし、完全に元通りになることを期待しすぎず、新しい形での「その子らしい生き方」を応援していきましょう。なお、回復の段階は必ずしも一直線に進むわけではなく、行きつ戻りつすることもあります。
それは「失敗」ではなく、心が必要としている「休息」なのです。
不登校児の親が今日からできること
どのタイプ、どの段階の不登校でも、共通して大切なのは「親の姿勢」です。
ここでは、今日から実践できる3つのことをお伝えします。
子どもの声を「聴く」
アドバイスや叱咤よりも、「そう感じているんだね」「つらかったね」と共感することが心を救います。「話してくれてありがとう」「そう思ってたんだね」「つらかったね、よく我慢してたね」「味方だよ、いつでもそばにいるよ」という言葉が、子どもの心に届きます。
一方で、「でも…」「だけど…」と否定から入る言葉、「みんな頑張ってるよ」という比較の言葉、「いつまで休むの?」というプレッシャーの言葉、「甘えてるだけじゃない?」という否定の言葉は避けましょう。
沈黙していても、そばにいてくれるだけで子どもは安心します。
親自身の心を守る
不登校が続くと、保護者も焦りや孤独を感じます。しかし、親が不安定だと、その不安は子どもに伝わってしまいます。親自身の心を守ることは、決して自分勝手なことではなく、子どものために必要なことです。
信頼できる人に話を聞いてもらう、自分だけの時間を持つ、「完璧な親」を目指さない、カウンセリングや親の会に参加するなど、自分をケアする方法を見つけましょう。親の心が安定すれば、その安心感は子どもに伝わります。
外部の支援を積極的に利用する
家庭だけで抱え込むのではなく、第三者の力を借えることが、親子の関係を守ることにもつながります。
学校の先生やスクールカウンセラー、教育相談センター、児童相談所、心療内科や児童精神科、フリースクールや不登校支援団体、民間のカウンセラーや不登校の親の会など、様々な選択肢があります。
早めに相談し、複数の場所に相談してもかまいません。合わないと感じたら他の場所を探し、子どもだけでなく親も支援を受けましょう。一人で悩まず、頼れる人はたくさんいます。相談することは弱さではなく、強さなのです。
おわりに
不登校は「行けない自分を責め続ける子ども」と、「何とかしてあげたいと焦る親」の間に生まれる緊張が、さらに心を苦しめてしまう構造を持っています。しかし、お子さんが不登校になったとき、それは「成長が止まった」ということではありません。
むしろ、不登校になることは子どもが自分の心を守るために出したSOSのサインなのです。
この記事で紹介した不登校の7つのタイプは、そのサインの「形」を教えてくれます。そして7つの段階は、そのサインがどの位置にあるのかを知る「地図」になります。
親がこの二つを理解すれば、「今、何をしてはいけないか」「どう寄り添えばよいか」が見えてきます。たとえば、情緒混乱型の子が完全不登校期にある場合は、励ましよりも静かな見守りが必要です。
無気力型で定着期にいる子には、小さな達成体験を積ませることが回復への道になります。つまり、子どもに合わせて言葉とタイミングを変えることが、何よりも効果的なのです。
社会の中で「不登校」はまだマイナスのイメージを持たれがちですが、実際には、多くの子どもたちがこの期間を通して「自分を知り、他者への思いやりを育てる時間」にしています。
焦らず、比べず、見守ること。それが、親にできるいちばんの支援です。
不登校は終わりではなく、新しいスタートです。「行けない日があっても、生きているだけで価値がある」。そのメッセージを伝え続けることが、子どもの未来を守り、心を回復させる力になるのです。あなたは一人ではありません。
子どもと一緒に、一歩ずつ前に進んでいきましょう。


