不登校

「ひきこもりの子どもを支えるあなたへ」もう一度”共に生きる”力を取り戻すために

※本文中の事例は、支援現場でよく見られるパターンをもとに構成した架空のケースです。実在の人物・団体とは関係ありません。

「ひきこもり」は、あなたやお子さんのせいではありません

「子どもが部屋から出てこない」
「もう何年も外に出ていない」

多くの親御さんがその現実を前に、胸の奥で何度も「自分の育て方が悪かったのでは」と責めてきたことでしょう。

しかし、厚生労働省が定める『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』でも明記されているように、ひきこもりは「単一の原因で起こるものではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じる”状態”」です。病気でもなく、怠けでもなく、ましてや親の責任でもありません。

内閣府の調査(2023年)によると、15歳から64歳のひきこもり当事者は全国で約146万人(推計で約50人に1人)に上ります。いまや、誰の家庭にも起こりうる社会的な問題です。その背景には、病気や発達の特性、職場や学校でのつまずき、社会の急激な変化、そして価値観の多様化があります。

つまり「特別な家庭にだけ起こること」ではなく、現代を生きる多くの家庭が直面する課題なのです。
引用:内閣府 こども・若者の意識と生活に関する調査 (令和4年度)

あなたがこれまでしてきた努力――待ち続け、見守り、時には涙をこらえて声をかけた日々――は、間違っていません。必要なのは「本人を変えること」ではなく、家族と社会がどう支えるかを学び直すことです。

この文章では、専門家や支援団体の知見をもとに、ひきこもりの正しい理解と、親としての関わり方、そして支援の受け方を丁寧に解説していきます。

「ひきこもり」とは”病気ではない状態”ということを理解する

ひきこもりの定義と多様性

まず、私たちが前提として知っておきたいのは、「ひきこもり」は病名ではないということです。

厚生労働省のガイドラインでは、ひきこもりを「6か月以上にわたって家庭にとどまり、社会的参加(就学・就労・交友など)を避けている状態」と定義しています。この定義は一見シンプルですが、実際には極めて多様な背景を持つ状態を包含しています。

長野県精神保健福祉センターの定義では、さらに細かく分類されています。「外出自体ができない人」だけでなく、「他者と関わらずに外出できる人」もひきこもりの範囲に含まれます。つまり、コンビニや図書館には行けても、学校や職場には行けない。散歩はできても、人と会話することは避ける。こうした状態も、社会的交流を避けているという点で「ひきこもり」に該当するのです。

ひきこもりの医学的背景

医学的には、ひきこもりの背景にある要因は大きく3つの群に分けられます。

①統合失調症やうつ病などの精神疾患が背景にあるケース

②発達障がいなどの特性から社会適応が難しいケース

③明確な疾患はないが、対人関係や挫折経験から孤立したケース

第一に、統合失調症やうつ病などの精神疾患が背景にあるケースです。これらの疾患によって対人関係や外出が困難になり、結果としてひきこもり状態に至ります。この場合、適切な医療的介入が必要になります。

第二に、発達障がいなどの特性から社会適応が難しいケースです。対人コミュニケーションの困難さ、感覚過敏、環境の変化への適応の難しさなどが、学校や職場での適応を困難にし、ひきこもりにつながることがあります。

第三に、明確な疾患はないが、対人関係や挫折経験から孤立したケースです。いじめ、失敗体験、家庭内の問題などをきっかけに、社会との関わりを避けるようになります。

どの群にも共通しているのは、「人との関わりが負担になり、回避することで心の安定を保とうとする」という心理的メカニズムです。つまり、ひきこもりは本人にとって「安心できる唯一の選択」なのです。

「出られない」のではなく「出たくない」理由がある

ここで重要なのは、ひきこもり状態にある人は「外に出られない」のではなく、「外に出ることが怖い、痛い、苦しい」から出ないという点です。

外の世界は、彼らにとって脅威に満ちた場所です。「また失敗するかもしれない」「人に嫌われるかもしれない」「自分の無能さを晒すことになる」。こうした恐怖が、一歩を踏み出すことを不可能にしています。

家の中は、唯一安全が保障された場所です。そこでは誰にも評価されず、傷つけられることもありません。この「安全地帯」から出ることは、本人にとって命がけの決断に等しいのです。

この理解こそが、支援の第一歩になります。「怠けている」「甘えている」という見方を捨て、「本人なりの理由があって、そうせざるを得ない状態にある」と捉え直すことが必要です。

【事例】Aさん(中学2年生・14歳)のケース

Aさんは小学校では明るい子どもでしたが、中学入学後、授業中にクラスメイトから笑われたことをきっかけに学校に行けなくなりました。朝になると腹痛や頭痛を訴え、やがて部屋から出てこなくなりました。
親の「学校に行きなさい」という声かけは、Aさんには「自分の弱さを責められている」と聞こえ、部屋に鍵をかけて家族とも話さなくなりました。

この事例から分かること

ひきこもりは「怠け」ではありません。失敗体験が心に深い傷を残し、外に出ることへの恐怖として現れます。身体症状は心のSOSです。親の声かけが「責め」と感じられる背景には、強い自己否定感があります。

なぜ長期化するのか?3つの側面から理解する

ひきこもりは、なぜ数週間や数か月で終わらず、数年、時には10年以上も続いてしまうのでしょうか。

その答えは、生物学的・心理的・社会的な要因が複雑に絡み合い、互いに影響し合いながら「長期化のスパイラル」を形成してしまうからです。一つの要因だけを解決しても、他の要因が残っていれば、ひきこもり状態は継続してしまいます。

専門家は、この3つの側面を理解することが、長期化を防ぎ、回復への道筋を見出すために不可欠だと指摘しています。それぞれの側面を、具体的な事例とともに見ていきましょう。

①生物学的側面(体のリズムが崩れるから)

ひきこもりが長期化する第一の要因は、体のリズムそのものが変調をきたすことです。

人間の体は、太陽の光を浴びることで体内時計が調整され、正常なホルモン分泌が維持されます。しかし、部屋に閉じこもり、昼夜が逆転した生活が続くと、この体内時計が狂い始めます。

メラトニン(睡眠を促すホルモン)やセロトニン(心の安定に関わるホルモン)の分泌リズムが乱れ、昼間に眠く、夜に目が冴えるという悪循環が生まれます。さらに、長期の緊張や不安によって自律神経が過敏になり、外出そのものが身体的負担になってしまうのです。

これは「気持ちの問題」ではなく、医学的に説明できる身体の変調です。本人の意志だけでは解決できない、生物学的な障壁が生まれているのです。

【事例】Bさん(小学6年生・12歳)のケース

Bさんは小学5年で友達グループから突然無視され、6年に進級しても噂が広がり孤立しました。ある日から学校に行けなくなり、次第に昼夜が逆転。夜中の2時に起き、明け方に眠る生活になりました。たまに昼間に起きても、太陽の光がまぶしすぎて目が痛み、頭がズキズキします。

この事例から分かること

いじめや孤立の経験は深い傷を残し、「また同じことが起きる」という恐怖が学校復帰を困難にします。昼夜逆転は「怠け」ではなく、体内時計が狂う医学的問題です。太陽光がまぶしいのも、長期間暗い部屋で過ごした結果、体が昼間の環境に適応できなくなったためです。

②心理的側面(失敗への恐怖が行動を止めるから)

第二の要因は、心理的な悪循環です。

ひきこもり状態にある多くの人は、強い挫折感と自己否定の中で生きています。「もう一度失敗したら立ち直れない」「人と会うのが怖い」「自分は価値のない人間だ」。こうした思考が頭の中を支配し、新しい一歩を踏み出す勇気を奪っていきます。

心理学では、これを「回避行動の強化」と呼びます。外に出ることで不安や恐怖を感じるため、家にいることで一時的に安心を得る。この「安心の報酬」が、ひきこもり行動を強化してしまうのです。

さらに、孤立が長引くほど自尊心が低下します。「自分には価値がない」と感じるようになり、それがさらに行動の停止を強める。この悪循環が、ひきこもりを長期化させる大きな要因になっています。

【事例】Cさん(中学1年生・13歳)のケース

Cさんは小6の運動会で転んでクラスが最下位に。「お前のせいで負けた」と言われ学校に行けなくなりました。中学入学時に登校を試みましたが、教室の前で「また失敗したら」という恐怖に襲われ、そのまま帰宅。半年以上「自分は何をやってもダメだ」と自分を責め続け、「もう一度失敗したら本当に終わりだ」という思考が一歩を踏み出すことを不可能にしています。

この事例から分かること

一度の失敗体験が「もう二度と失敗できない」という過度なプレッシャーを生み、新しい挑戦を不可能にします。自己否定が強まるほど「自分には価値がない」という思い込みが固まり、行動できなくなります。回復には小さな成功体験と「失敗してもいい」という安心感が必要です。

③社会的側面(「戻る道がない」という絶望を抱えるから)

第三の要因は、社会構造そのものが持つ問題です。

日本社会には、「学校に行くのが当たり前」「働くのが当たり前」という強い規範があります。この価値観の中では、一度そのレールから外れた人が戻る道を見つけることが非常に難しくなります。

実際には、フリースクール、通信制学校、サポート校、就労支援など、多様な選択肢が存在しています。しかし、それらの情報が当事者や家族に届いていない、あるいは「それは普通じゃない」という偏見が、選択肢を狭めてしまっています。

さらに、地域に身近な相談機関がない、相談しても「本人のやる気の問題」と言われる、世間体を気にして相談できない、という構造的な壁があります。こうした環境が、親や本人を「助けを求めにくい孤立状態」に追い込んでいるのです。

【事例】Dさん(中学2年生・14歳)のケース

Dさんは中1の夏から不登校になり1年以上。母親は学校や教育委員会に相談しましたが「本人のやる気の問題」と言われるだけ。地域に専門機関もなく、近所の人には「甘やかしている」と言われ、誰にも相談できなくなりました。Dさんも「普通の人生から外れた」と感じ、ネットで検索すると「就職できない」「人生終わり」という言葉ばかり。「もう戻る道なんてない」と思い込んでいます。

この事例から分かること

「学校に行くのが当たり前」という社会の価値観が、一度外れた子どもと家族を追い詰めます。相談機関の不足や地域の無理解が孤立を生みます。しかし実際には、フリースクール、通信制学校など「戻る道」は存在しています。社会全体が「多様な生き方を認める」意識を持つことが、孤立を防ぐ鍵です。

家族の心の疲れ「支える側」もまた支援が必要です

親が抱える三重の苦しみ

ひきこもりの子どもを支える親は、しばしば当事者以上に深刻な心理的負担を抱えています。

①家族からの批判

②世間体への不安

③自分への罪悪感

第一に、家族からの批判です。配偶者や祖父母から「甘やかしている」「厳しくすべきだ」と言われ、板挟みになります。家族内で支援方針が一致しないことが、親をさらに孤立させます。

第二に、世間体への不安です。近所の人に会うたびに「お子さん、元気?」と聞かれ、嘘をつくことに罪悪感を覚える。親戚の集まりを避けるようになり、社会的な孤立が深まります。

第三に、自分への罪悪感です。「私の育て方が悪かったのでは」「もっと早く気づいていれば」と、過去を悔やみ続けます。この罪悪感が、親自身の心身の健康を蝕んでいきます。

この三重の苦しみを一人で抱え込んだ結果、親がうつ状態になったり、体調を崩したりするケースは決して珍しくありません。

「支える側」への支援の必要性

日本財団の取材に応じた「わたげの会」代表・秋田敦子さんは、20年以上にわたりひきこもりの家族を支援してきました。彼女が強調するのは、「当事者支援と同じくらい、家族支援が大切」ということです。

多くの親は、子どもを”なんとかしなきゃ”と思うあまり、自分自身のケアを後回しにしてしまいます。しかし、親自身が心身を壊してしまっては、子どもを支えることができません。

秋田さんはこう言います。
「まずは親御さんが笑顔でいられること。それが子どもにとって最大の支援です」

親が心を休め、愛情を取り戻すことが、子どもが再び社会と向き合う力になります。罪悪感ではなく、「これからどう支え合うか」という視点に立つことが重要です。

【事例】Eさん(小学6年生・12歳)のケース

Eさんは小5の春から学校に行けなくなり1年以上。母親は毎日部屋の前に食事を置き声をかけますが返事はありません。父親は「甘やかすな」と責め、祖母からは「もっと厳しく」と言われます。近所で「中学はどこに?」と聞かれ笑顔で答えましたが、帰宅後涙が止まりませんでした。母親は夜も眠れず食欲もなくなり、体重は7キロ減りました。

この事例から分かること

ひきこもりの子を支える親は、家族からの批判、世間体への不安、自分への罪悪感という三重の苦しみを抱えています。母親は「母親失格」と自分を責めがちですが、親自身が心身を壊しては子どもを支えられません。「支える側」もまた支援が必要です。

正しい関わり方は「動かす」のではなく「寄り添う」

「待つ力」が回復の前提になる

親として「どう接したらいいか分からない」と感じるのは自然なことです。しかし、専門家の共通した見解は明確です。

焦って無理に動かそうとしないこと。本人のタイミングを尊重し、安心できる関係を取り戻すことが、回復の前提になります。

多くの親は「早く学校に戻ってほしい」「早く働いてほしい」と願うあまり、本人をせかしてしまいます。しかし、これは逆効果です。本人の準備ができていない段階で外へ出すと、信頼関係が崩れ、さらに深い孤立を招いてしまいます。

回復のペースは一人ひとり違います。数か月で外に出られるようになる人もいれば、数年かかる人もいます。その違いは、本人の「弱さ」や「やる気のなさ」ではなく、背景にある要因の複雑さによるものです。

“待つ力”こそが、家族に求められる最大の支援なのです。

小さな愛情表現から始める

秋田さんが実践する支援では、まず「小さな愛情表現」から始めます。

お弁当をお子様ランチ風に盛り付ける、部屋のカーテンを替える、布団を新しくする。一見、ひきこもりとは関係のないような行動が、「あなたのことを気にかけている」という無言のメッセージになります。

これらの行動は、直接的に「学校に行きなさい」と言うよりもはるかに効果的です。なぜなら、本人の自尊心を回復させ、「自分も誰かに大切にされている」と感じるきっかけになるからです。

言葉でのコミュニケーションが難しくなっても、こうした非言語的なメッセージは確実に届きます。焦らず、押し付けず、ただ「待つ」という姿勢が、信頼関係を回復させる力になります。

【事例】Fさん(小学5年生・11歳)の実践

Fさんは小4の秋から部屋にこもり1年が経過。父娘の会話は途絶えていました。支援者のアドバイスで、父親はFさんが小2の頃に好きだったアニメグッズを部屋のドアの前に置きました。翌朝、グッズは部屋の中に消えていました。毎週小さなものを置き続け、2か月後、Fさんから「ありがとう」の手紙が来ました。父親は涙が止まりませんでした。

この事例から分かること

言葉でのコミュニケーションが難しくても、「小さな愛情表現」は子どもに確実に届きます。プレゼントやメモで「気にかけている」というメッセージを送り続けることが、子どもの心を少しずつ開きます。焦らず、押し付けず、ただ「待つ」姿勢が信頼関係を回復させます。

回復への道は「少しずつ外の世界とつながる」こと

段階的な回復プロセス

専門機関のデータによれば、ひきこもりからの回復は「段階的に外とつながる過程」で進みます。

いきなり学校に戻る、働き始めるというのは、ほとんどのケースで現実的ではありません。まずは”社会を再び感じる”という小さなステップから始め、少しずつ外の世界とのつながりを取り戻していくことが重要です。

専門家が推奨する回復のステップは、大きく3つに分けられます。

ステップ①:安心できる人と会話する

ステップ②:短時間の外出

ステップ③:小さな成功体験を重ねる

ステップ①:安心できる人と会話をする
家族以外の人と話すことが、回復の第一歩です。最初はオンラインや電話でのやりとりでも構いません。「声を出すこと」「応答が返ってくること」が、人間関係への再信頼を育みます。

ステップ②:短時間の外出
5分の散歩でも、夜のコンビニでも構いません。太陽光を浴びることで脳内のセロトニンが分泌され、心が安定し、生活リズムが戻りやすくなります(厚生労働省健康づくり指針より)。

ステップ③:小さな成功体験を重ねる
「午前中に起きられた」「人と挨拶できた」。これらの積み重ねが自己効力感を高め、「またやってみよう」と思えるようになります。専門家はこれをスモールステップの法則と呼びます。

これらのステップは、順番通りに進むとは限りません。行ったり来たりしながら、ゆっくりと前に進んでいくのが一般的です。焦らず、達成の実感を共に喜ぶ姿勢が大切です。

【事例】Hさん(小学5年生・11歳)の回復プロセス

Hさんは小4でクラスで仲間外れにされ、1年以上家族とも話さずに過ごしていました。転機は父親が同じオンラインゲームを始めたこと。ゲーム内のチャットで「このモンスター強いね」と父が送ると、Hさんが「こうやって倒すんだよ」と答えました。8か月ぶりの会話でした。やがてゲーム内で他のプレイヤーとも交流するようになり、「人と話すのは怖くないかもしれない」と思えるようになりました。

この事例から分かること

直接の対面が怖くても、オンラインやゲームという「安全な距離」からなら子どもは人とつながれます。親が子どもの興味に寄り添い、同じ土俵に立つことで自然なコミュニケーションが生まれます。これが「人との関わりは怖くない」という感覚を取り戻す第一歩です。

【事例】Iさん(中学2年生・14歳)の小さな一歩

1年半外出していなかったFさん。夏の夜、母親が「アイス食べに行かない?」と誘いました。「夜なら人が少ない」と思い、初めて玄関を出ました。コンビニまでの5分間、心臓はドキドキし足は震えていましたが、店員さんは普通に接客してくれました。何も特別なことは起こりませんでした。それが嬉しかったのです。帰宅後、Iさんは「また行ってもいい?」と母親に聞きました。

この事例から分かること

外出への第一歩は「人が少ない時間」「短時間」「家族と一緒」という安心できる条件から始めることが大切です。「何も悪いことは起きなかった」という成功体験が次の行動への勇気になります。親は小さな一歩を大げさに褒めず、静かに受け止めることが重要です。

社会資源を頼る!家族だけで抱え込まない

ひきこもり支援の進化

ひきこもり支援は、いま全国で大きく進化しています。

2025年1月には、厚生労働省が全国自治体に「ひきこもり支援ハンドブック」を通知しました。この中では、支援の目的について重要な定義がなされています。

「支援の目的は働くことではなく、自分の意思で生き方を選べるようになること(=自律)」

これは、従来の「社会復帰=就労」という固定観念からの大きな転換を意味します。働くことだけが目標ではなく、本人が自分らしい生き方を選択できるようになることが、真の支援の目的なのです。

この方針転換は、当事者と家族に大きな希望をもたらしています。「働けるようにならなければ意味がない」というプレッシャーから解放され、より柔軟な回復の道筋を描けるようになったからです。

利用できる主な相談機関

現在、全国には多様な相談機関が整備されています。

  • 各自治体のひきこもり地域支援センター
    都道府県・政令指定都市に設置され、専門的な相談を受けられます。
  • 保健所・精神保健福祉センター
    専門職(精神保健福祉士、臨床心理士)によるカウンセリングが受けられます。
  • 家族会・NPO法人
    KHJ全国ひきこもり家族会連合会、わたげの会など、同じ立場の家族と情報交換ができます
  • 心療内科・精神科クリニック
    医学的な診断や、必要に応じた薬物療法を受けられます
  • 在宅精神科医療
    通院困難な方のために、精神科医が自宅を訪問してカウンセリングや治療を行います
  • スクールカウンセラー・教育相談室
    学校と連携した支援を受けられます

特に注目すべきは、医療法人社団心翠会などが提供する在宅精神科医療です。外に出られない人のために精神科医が自宅を訪問し、在宅でカウンセリングや治療を受けられる仕組みが整っています。

つまり、「外に出られない=支援を受けられない」ではありません。家の中から支援を始めることができる時代になっているのです。

家族会の力

家族会やサポートグループは、「同じ立場の人と話す」ことで、罪悪感や孤独感を軽減する大きな力になります。

「自分だけじゃないんだ」と気づくこと。他の家族がどう対応しているかを知ること。回復した事例を聞くこと。これらはすべて、孤立していた親に希望と具体的な方法をもたらします。

【事例】Jさん(小学6年生・12歳)が家族会に参加して

Jさんの母親は娘の不登校を1年間誰にも相談できずにいました。しかしある日、勇気を出して地域の家族会に参加しました。そこには小中学生の子を持つ親がたくさんいて、「うちも小学校やめました」「毎日部屋の前で泣いています」という言葉に、母親は「自分だけじゃないんだ」と気づきました。帰宅後、久しぶりに笑顔で食事を運ぶと、部屋から「ただいま」と聞こえました。娘が母親の帰りを待っていたのです。

この事例から分かること

親が孤立から抜け出し心に余裕を取り戻すことは子どもにも伝わります。家族会は「同じ立場の人と話す」ことで罪悪感や孤独感を軽減します。親が笑顔を取り戻すことが、子どもにとって「この家は安全だ」というメッセージになります。

親が支えすぎず、離れ過ぎずにできる3つのこと

親としてできることは何か。適度な距離感でバランスの取れた関わり方をしたいですよね。
そのためには、子どもを「変えること」ではなく、「支え続けること」と「自分自身を大切にすること」のバランスを取ることが大切です。

支援の現場で繰り返し語られるのは、「親が元気でいることが、子どもにとって最大の支援になる」という事実です。親が疲弊し、希望を失っていては、子どもはさらに罪悪感を抱き、自己否定を深めてしまいます。

ここでは、専門家が推奨する「親ができる3つのこと」を具体的に解説します。

①自分を責めないこと

罪悪感はエネルギーを奪い、視野を狭めます。「私の育て方が悪かった」「もっと早く気づいていれば」と過去を悔やむことは、現在の状況を改善する助けにはなりません。

あなたの子育ては間違っていません。ひきこもりは、単一の原因で起こるものではなく、多様な要因が複雑に絡み合って生じる「状態」です。親の責任ではないのです。

今できるのは「過去を悔やむこと」ではなく、「今どう関われるか」を考えることです。

②自分の生活を整えること

あなたが眠れていない、食事が取れていないと、子どもは無意識に「自分が親を苦しめている」と感じてしまいます。

まず、あなた自身が安心して過ごせる時間をつくりましょう。十分な睡眠を取る、栄養のある食事をする、趣味の時間を持つ。これらは「自分勝手」なことではなく、子どもを支えるために必要な「セルフケア」です。

地域の家族会やカウンセリングも利用して構いません。専門家の助けを借りることは、弱さではなく、賢明な選択です。

社会とのつながりを持ち続けること

支援の現場では、家族が外との接点を持ち続けている家庭ほど、子どもの回復も早いという報告があります。

「親が社会と関わっている姿」が、子どもにとって「外の世界も悪くないかもしれない」という希望になるからです。親が生き生きとしていることが、子どもの回復への大きな力になるのです。

【事例】Kさん(中学3年生・15歳)の変化

Kさんの父親は息子の不登校をきっかけに趣味のテニスをやめました。しかし支援者から「お父さんが元気でいることが力になります」と言われ、久しぶりにテニスサークルに参加。帰宅後、息子の部屋から「おかえり。楽しかった?」という小さな声が聞こえました。10か月ぶりの会話でした。その日から息子は時々リビングに降りてくるようになり、「今度見に行っていい?」と聞いてきました。

この事例から分かること

親が自分の人生を楽しみ社会と関わっている姿は、子どもに「外の世界も悪くないかもしれない」という希望を与えます。親が罪悪感から自分を犠牲にすることは、逆に子どもに「自分のせいで親が不幸になっている」という罪悪感を与えてしまいます。親が生き生きとしていることが子どもの回復への大きな力になります。

「誰でもなりうる”ひきこもり”」を自分ごととして考えてみる

ひきこもりは特別な問題ではない

現代社会では、働いていても、学校に通っていても、心がすり減り、他人と関われなくなることがあります。過労、ハラスメント、人間関係の悩み、将来への不安。これらは、形を変えた「ひきこもり予備群」の状態ともいえます。

孤独や疎外感を抱えている人は、実は社会全体に広がっています。表面上は「普通」に見える人でも、心の中では深い孤独を感じていることがあります。

特定非営利活動法人わたげの会 代表の秋田さんはこう語ります。
「昔は”隠すこと”が普通でした。でも今は、地域の中で共に支え合う時代です。ひきこもりの子どもがいる家庭を特別視せず、”誰もがなりうる”という意識を持つことが社会を変える第一歩です。」

ひきこもりを「特別な家庭の問題」として遠ざけるのではなく、「誰にでも起こりうる社会的課題」として受け止めること。そして、当事者と家族を孤立させない地域社会を作ること。これが、今求められている意識変革です。

ひきこもりの回復は可能!そのプロセスとは

ひきこもりの回復には時間がかかります。しかし、支援の現場で多くの当事者が再び外に出て、働き、家庭を持つようになっています。

「わたげの会」では、結婚し、子どもを連れて挨拶に来る元当事者も珍しくありません。彼らが口をそろえて言うのは、「きっかけは、家族の愛情だった」ということです。

回復のプロセスは一直線ではありません。前進したかと思えば後退し、また少し前に進む。そんな繰り返しの中で、少しずつ外の世界とのつながりを取り戻していきます。

【事例】Lさん(16歳・高校1年生)の今

Lさんは小5から中3までの5年間、ほとんど学校に行けませんでした。しかし家族の愛情と支援機関のサポートで少しずつ外に出られるようになり、フリースクールに通い始め、今年通信制高校に入学しました。「あの5年間は無駄じゃなかった。苦しみを知っているからこそ、今悩んでいる人の気持ちが分かる」とLさんは言います。今は週2回フリースクールで年下の子どもたちの話し相手をしています。

この事例から分かること

ひきこもりの経験は「無駄な時間」ではありません。その苦しみを経験したからこそ、他者の痛みを理解し誰かの支えになれます。回復には時間がかかりますが、その先には必ず希望があります。焦らず、子どものペースで一歩ずつ進んでいくことが大切です。

あなたへのメッセージ

あなたの笑顔、声かけ、待つ姿勢――それが、子どもが再び世界とつながるための”橋”になります。

社会全体もいま、あなたの家族を支えるために動いています。行政、医療、NPO、地域がつながり、「居場所」と「理解」が少しずつ広がっています。

どうか、諦めないでください。「動かない時間」もまた、回復の過程の一部です。そしてあなた自身もまた、支えられていい存在なのです。


参考文献・公的データ出典


本文中の事例は、支援現場でよく見られるパターンをもとに構成した架空のケースです。実在の人物・団体とは関係ありません。

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